Orchestra Canvas Tokyo Blog

# 曲目解説の記事:45件

エルガー / 『南国にて』

エドワード・エルガーは1857年、イングランド中部にて生を享けた。当世(ヴィクトリア期)のイギリスは、政治・社会双方の面において世界を先導しており、1851年には世界最初の万博博覧会を催すなど栄華を極めていた。他方、管弦楽の分野においては、盛期・後期ロマン派音楽を指導するような作曲家はほぼおらず、民俗音楽に立脚した作品が主流であった。エルガーは、楽器商の父により幼い頃からヴァイオリンやピアノの教育……

2024/2/8

チャイコフスキー / 交響曲第5番 ホ短調 作品64

チャイコフスキーの旋律美が多くの人々を魅了し続けてきたことは言うまでもない。ある団員が云うには、チャイコフスキーは“音階を音楽に変える天才”だそうだ。確かに彼が生み出す旋律は、音階の要素を基調に多彩な装飾が施されており、息を呑むほどに美しく、哀しく、そして慈愛に満ちている。一方で、赤裸々な感情移入を厭わない作風は当時のロシア人作曲家の中では異色であり、厳しい批評にさらされていたのもまた事実である。……

2023/10/6

シベリウス / ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

シベリウスはフィンランドを代表する作曲家であり、フィンランドの過酷な自然や幻想的な民族伝承、住民の厳しく孤独な心を、有機的な構成の中にあってなお感じさせる作風が特徴である。また、ロシアの支配にあえぐフィンランドにおいて、フィンランドの民族叙事詩に基づく作曲等を通じ、ナショナル・アイデンティティの探究に寄与した人物としても名高い。1900年のヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団パリ万博公演での《フィ……

2023/10/6

ファリャ / バレエ音楽《三角帽子》第2組曲

ファリャは、スペインを代表する作曲家の1人である。バレエ音楽『三角帽子』は、稀代のバレエ興行師ディアギレフがP.アラルコンによる短編小説『三角帽子』をもとに手がけたバレエ作品のために作曲された。1917年の初演当初は第一次世界大戦中ということもあり、小規模のパントマイムとして上演された。その後大編成オーケストラ用に改編され、1919年にバレエ音楽として完成に至った。バレエ音楽『三角帽子』は2つの組……

2023/10/6

ベートーヴェン / 交響曲第7番 ヘ長調 作品92

1812年に完成した《交響曲第7番》は、双生児とされる《交響曲第8番》(1812)と同時に非公開で演奏されたのち、1813年に公開で初演された。初演は大成功をおさめ、特に第2楽章は単体でアンコールとして演奏されている。ベートーヴェン自身も本作を気に入っており、ロンドンの興行師ザロモンに向けた手紙の中で、「私のもっともすぐれた作品の一つ」と評した。ベートーヴェンの交響曲は、《交響曲第1番》(1800……

2023/7/8

ベートーヴェン / 交響曲第8番 ヘ長調 作品93

ベートーヴェンは微笑んだか?交響曲第8番と向き合う時、我々は一見したところ自明とも思われるこの問いを心のどこかに抱くことになる。たしかにこの曲はベートヴェンの九つの交響曲の中でも比類のない明るさと快活さに溢れている。しかしその一方で、交響曲第8番の底抜けな――「笑う交響曲」とも呼ばれるほどの――明るさを感じようとすればするほど、ぞっとするような皮肉が日陰から顔を覗かせることも見過ごしてはいけない。……

2023/7/8

ベートーヴェン / 『コリオラン』序曲

『コリオラン』序曲は1807年に作曲された演奏会用序曲である。本作品は、友人の劇作家ハインリヒ・ヨーゼフ・フォン・コリン(1771-1821)の舞台劇《コリオラン》を題材としており、同氏に献呈されている。舞台劇《コリオラン》が描いたのは、ローマの英雄コリオラヌスの悲劇である。数々の武勲で名声を高めていたコリオラヌスは、身分闘争の最中、護民官の陰謀により失脚してしまう。彼は復讐に燃え、かつて敵国だっ……

2023/7/8

ベートーヴェンとオーケストラ

第7回定期演奏会では、巨匠ベートーヴェンによる3つのオーケストラ作品を取り上げる。ここでは彼の生涯を概観した上で、何が彼を巨匠たらしめたのかについて、オーケストラ史的観点から述べたい。ベートーヴェンは1770年にボン(現在のドイツ西部)で生まれた。当時のボンは、ハプスブルク朝の政治的重要都市として、充実した音楽文化を繁栄させていた。宮廷音楽家たる祖父と父を持つ彼は、幼少期から音楽の素養を深め、バッ……

2023/7/8

スメタナ / 連作交響曲《我が祖国》

私の愛するチェコ民族は決して滅びることはない。地獄の恐怖が振りかかろうと、必ずや気高い勝利を収めるであろう。6つの交響詩から成る本作は、チェコ民族にとって最も大切で意義のある作品として愛され、尊敬されている。チェコの激動の歴史、美しい自然の情景、人々の強い想い、そして民族の幸福と繁栄への願いが内包された、約80分間の物語の旋律は人々の心を掴んで離さない。チェコの歴史は被支配に対する自由への闘争の歴……

2023/4/10

ドヴォルザーク / チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

本演奏会で取り上げるスメタナとドヴォルザークは、ともにチェコを代表する作曲家である。チェコは絶えず政治的・宗教的動乱に巻き込まれてきた地域であり、その音楽は長い分裂の歴史による動態的な文化の中で発展してきた。チェコ音楽の基層部分をなす民俗音楽は、西側のボヘミア地方では西欧文化の影響を受け器楽的、東側のモラヴィア地方では東方諸邦の音楽を受け継ぎ声楽的であるとされる。両地域の差異は、政治的混乱の中で、……

2023/4/2