《アルルの女》第2組曲は、フランスの作曲家ビゼーの劇付随音楽《アルルの女》を元に、彼の親友でパリ国立音楽院作曲学教授のギローによって編曲された組曲である。
ビゼーは、1838年、パリにて、声楽教師の父とピアニストの母の間に生まれる。幼い頃から音楽に親しみ、《真珠採り》(1863)や《美しきパースの娘》(1866)で劇音楽作曲家としての地位を確立すると、1875年には代表作の一つ、オペラ《カルメン》が初演されるが、斬新な試みなどを理由に酷評を受ける。その3か月後、ビゼーは36歳の若さでこの世を去り、《カルメン》が後年その真価を認められるのを見ることは叶わなかった。
劇付随音楽《アルルの女》は、1872年に同名小説を基にした戯曲の上演のために作曲された。この戯曲は、南フランスのアルル近郊のカマルグという農村を舞台とした3幕構成の悲劇である。旧家の長男フレデリは、アルルで出会った女性に心を奪われるが、牧場番のミティフィオが彼女の恋人は自分だと主張する(第1幕)。失恋したフレデリは憔悴しきり、それを心配する母ローザの願いを受けて、幼馴染ヴィヴェッタが彼に優しい言葉をかけ、やがて2人は婚約する(第2幕)。しかし婚礼準備の最中、ミティフィオが「アルルの女と駆け落ちする」と話すのを聞いたフレデリは再び錯乱し、バルコニーから飛び降り絶命する(第3幕)。
この作品に登場する全27曲からビゼー自身が4曲を選び編曲した《アルルの女》第1組曲は、1872年に初演され、当初から高い人気を博した。第2組曲は、ビゼーの死後となる1879年、ギローにより《アルルの女》や他のビゼー作品から4曲を選んで編まれた。その後、第1組曲と同様にビゼーの代表作として今日まで絶えず演奏されている。
第1曲 <パストラール>
原作では第2幕冒頭で演奏される。
3部形式を取り、第1部では豪快な旋律が展開されていく。第2部は打楽器や弦楽器のきざむ舞踏風リズムの上に、フルートとクラリネットがオクターヴで軽快な主旋律を出し、オーボエとピッコロとがそれを続け、反復しながら展開する。第3部は原作にはなく、第1部を短縮して再現する。
第2曲 <間奏曲>
原作では第2幕で演奏される。
荘厳な前奏の後で、優美で哀愁のある主旋律がサックスとホルンのオクターヴで奏せられ、感動的な頂点に達した後、再び前奏の旋律が終結部で用いられる。
第3曲 <メヌエット>
ビゼーのオペラ《美しきパースの娘》から取られたものであるが、今では《アルルの女》第3幕で演奏されている。
ハープの伴奏の上で、独奏フルートが優美な旋律を奏で、次第に他の楽器を加えて音の変化と厚みを増す。やがて再び元のフルートとハープのみに戻り、清らかに終わる。
第4曲 <ファランドール>
原作の第3幕で村人たちの踊るファランドール舞曲と、同じ幕で合唱されるプロヴァンス民謡《3人の王の行列》とを合せたものである。《3人の王の行列》は、第1組曲第1曲にも登場する。
初め全合奏で《3人の王の行列》の主題を打ち出し、次にこの主題が、弦と木管とホルンにより二部のカノンとなって繰り返される。ついでプロヴァンス太鼓の細かいリズムの上に、木管が弱く急速なファランドール主題を奏し始める。これが幾度も繰り返されて熱狂を加えてゆき、行進曲主題がファランドール主題と交互に奏される。クライマックスでは両主題が同時に現れ、壮快に曲を締めくくる。
(Vc. 阪内 佑利華)
参考文献
- ジョン・バロウズ(原書監修) /芳野靖夫(日本語版監修)/松村哲哉(訳), 2013年, 『クラシック作曲家大全―より深く楽しむために』, 東京都, 日東書院
- 堀内敬三, 1980年, 「組曲『アルルの女』」『最新名曲解説全集第5巻 管弦楽曲Ⅱ』(音楽之友社(編)), 160-166, 東京都, 音楽之友社