Orchestra Canvas Tokyo Blog

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ストラヴィンスキー / バレエ音楽 『火の鳥』組曲(1945年版)

サンクトペテルブルクで育ったストラヴィンスキーは、少年期にグリンカの作品に触れて管弦楽に魅了された。やがて大学に進学し法学部に籍を置いたが、音楽への情熱を失わなかった。幸運にもリムスキー=コルサコフに師事する機会を得て、その薫陶は1908年に師が逝去するまで続いた。まもなく発表された管弦楽曲《花火》がロシア・バレエ団を率いるセルゲイ・ディアギレフの目に留まり、それが作曲家としての転機になった。同団……

2025/11/11

チャイコフスキー / ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35

ロシヤの民衆の最も重要で、最も根本的な精神的要求は-場所と対象を選ばぬ、飽くことを知らない不断の、苦悩の要求にほかならないと、わたしは考える。1870年代のロシアは、国民の苦悩が鮮明に浮かび上がった時代であった。知識階層の学生たちは、民衆の犠牲のうえに大学で学ぶことに罪の意識を抱き、「ヴ・ナロード(人民の中へ)」運動を展開し、農民に対する社会革命思想のプロパガンダに注力した。そこには、未来を切り開……

2025/11/11

チャイコフスキー / 歌劇《エフゲニー・オネーギン》より〈ワルツ〉 作品24

ロシアの国民的詩人アレクサンドル・プーシキンが1820年代に執筆した長編小説『エフゲニー・オネーギン』は、当時のロシア貴族社会の風俗を背景に、青年オネーギンと純真な田舎娘タチヤーナの悲恋を描いた作品である。詩の形式で書かれたこの小説は、友情や嫉妬、社会的虚飾といった普遍的なテーマを織り込みつつ、登場人物の感情の機微を細やかに描き出し、発表以来ロシア文学を代表する古典として高く評価されてきた。187……

2025/11/11

シューマン / 交響曲第2番 ハ長調 Op.61

この数日間、トランペットとティンパニの音が、頭のなかを鳴り続けています。ここから何が生まれるのか、私にはまだわかりません。上記の文は本解説の執筆にあたって参照した複数の文献で取り上げられている。1845年9月にメンデルスゾーンに宛てて書かれた手紙の一節は、本作品の最初のインスピレーションを示すと同時に、シューマン自身の精神状態を端的に表している。本演奏会で扱うメンデルスゾーンとシューマンは同時代に……

2025/6/27

メンデルスゾーン / 真夏の夜の夢

当時ユダヤ人が公立学校に行くことができない環境で生まれたフェリックスは、哲学者の孫であり、銀行家の息子でもあったので、両親や家庭教師らから厳格な指導を受けて育った。文学や数学、地理や歴史、絵画やスポーツなど多岐にわたる才能を持っていた彼が生業にしたのは音楽だった。彼の音楽界における功績は、約750曲もの作品を残しただけでなく、バッハ楽曲の復活演奏の成功、指揮者の役割確立、音楽教育の尽力に代表される……

2025/6/27

ブルックナー / 交響曲第8番 ハ短調 WAB108

1865年6月、ミュンヘンにて楽劇〈トリスタンとイゾルデ〉が初演された。この長大な楽劇の初演3日目の観客の中には、ワーグナーが使う大胆な和音に魅せられ、管弦楽曲の作曲を本格的に開始していたブルックナーもいた。ブルックナーは1824年に現在のオーストリア、リンツ近郊のアンスフェルデンで生まれたオルガン奏者・作曲家である。幼少期から合唱やオルガンを学んだ彼は、1850年にアンスフェルデンのザンクト・フ……

2025/1/18

ワーグナー / 楽劇『トリスタンとイゾルデ』 より前奏曲と愛の死

楽劇『トリスタンとイゾルデ』は、ワーグナーがその初演に先立って第1幕への前奏曲と第3幕の終結部(愛の死)を連続して演奏したことから、「前奏曲と愛の死」は独立したオーケストラ作品として扱われており、現在でも重要なレパートリーの一つとなっている。作曲の経緯や音楽史上で果たした役割など、この楽劇にまつわる裏話は尽きないが、本稿では楽劇のあらすじと音楽を、前奏曲と愛の死に関連する内容を中心に紹介する。前奏……

2025/1/18

ブラームス / 交響曲第2番 ニ長調 作品73

オーストリアのヴェルター湖畔・ペルチャッハ滞在中に創られた本作は、明朗快活で伸びやかな曲想を有する。リヒター指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演され、多くの聴衆から絶賛された。ベートーヴェンの《交響曲第6番『田園』》に準えて、しばしば「ブラームスの田園交響曲」とも称されたほどである。ペルチャッハでは、《ヴァイオリン協奏曲》や《ヴァイオリンソナタ第1番》も生み出されており、ブラームス……

2024/9/10

ベートーヴェン / 交響曲第2番 ニ長調 作品36

われわれはみな音楽を必要としている。音楽なしに生きてゆくことはできないのである。本作は1801年から1802年4月にかけて主に作曲されたと言われており、1803年4月5日にウィーンにて作曲者本人の指揮で初演された。重厚さの中に、希望に満ち溢れるような明るさを感じさせる本作だが、その作曲・初演は、ベートーヴェンが聴覚の急速な喪失という困難に直面し、懊悩していた時期と重なる。では、なぜ深い絶望の中にあ……

2024/9/10

モーツァルト / 歌劇『イドメネオ』序曲

モーツァルトにとって、オペラ(歌劇)は最も魅力的なジャンルであった。人間の感情を歌で表現することに情熱を抱いていた彼は、生涯で23編のオペラを残している。その13番目に当たる『イドメネオ』(1781)は、『フィガロの結婚』(1786)、『ドン・ジョヴァンニ』(1787)などと並んで、彼の7大オペラに数えられる。歌、演技、その伴奏から構成されるオペラは、1600年ごろにイタリアで誕生し、その後ヨーロ……

2024/9/10
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