Orchestra Canvas Tokyo Blog

2022/8/14
2022/8/14

バレエ音楽「アパラチアの春」組曲

アーロン・コープランド (1900–1990)

作曲家について

アーロン・コープランドは、1900年1月14日にニューヨークのブルックリンでユダヤ系移民の両親のもとに生まれました。

作曲家を志した彼は、ナディア・ブーランジェの指導を受け、以後3年に渡ってパリで研鑽を積みます。ブーランジェは、後にバーンスタインや、ミニマル・ミュージックの大家で知られるグラスなども指導をしており、20世紀のアメリカ音楽の源流の一つとなる重要な人物です。

パリからアメリカに戻った彼は、ストラヴィンスキーの新古典主義の影響を強く受け、《劇場のための音楽》(1925)や《ピアノ協奏曲》(1926)を作曲しますが、やがて音楽がラジオや映画音楽といった大衆向けのメディア媒体によって作られていくことを予見し、より大衆に受け入れられやすいシンプルで明快な作風を確立します。

彼はこの作風の下でアメリカ的なものを描くことに挑戦し、西部開拓時代のプレーリーでの物語を描いた《ビリー・ザ・キッド》(1938)、アメリカ南西部のロデオ牧場を描いた《ロデオ》(1942)、アメリカ市民に贈った《市民のためのファンファーレ》(1942)、東部ペンシルヴァニアでの開拓時代の一日を描いた《アパラチアの春》(1944)を残しています。

この取り組みはアメリカ的な音楽というものを次第に形成することとなり、1960年代には「もはやアメリカ的な音楽を意識して追い求める必要はない。」と発言するほどに手応えを感じていました。

晩年は寡作となりますが、作曲以外にも教育家、著述家として活動し、1990年12月2日にニューヨークでその生涯を終えました。

《アパラチアの春》

バレエ音楽《アパラチアの春》は副題を《マーサのためのバレエ》と言い、舞踊家であるマーサ・グラハムと彼女の舞踊団のために描かれたものです。原曲は13管弦楽によりますが、今回取り上げる版は1945年にフルオーケストラの演奏向けに作者自身によって編曲されたものです。

開拓が進む時代、アメリカ東部のアパラチア山脈、その麓にあるペンシルヴァニアにて若い夫婦が結婚式を挙げた日を描いたこの作品は、コープランドのシンプルで明快な作風をよく表す作品です。また、曲中ではキリスト教プロテスタントの一派であるシェーカー教の民謡が引用されており、アメリカ的なものを描く取り組みを表す作品でもあります。

あらすじ

第1場 - Very Slowly

イ長調とホ長調の淡い響きの中で、目覚めを思わせるクラリネットのソロから始まる。登場人物が紹介されていく。伸びやかなソロは、やがて木管楽器、ソロヴァイオリンへと引き継がれ、観客を物語の地へと誘う。

第2場 - Allegro

弦楽器を中心とする鋭いアクセントから始まる。各登場人物が生き生きと動き出す。快活である一方、混合拍子や休符といった緊張感を孕んでおり、登場人物の動悸や高揚を感じさせる。

第3場 - Moderato

混合拍子の前奏から始まる。花婿と花嫁によるダンスの場面。調性やテンポ、拍子が目まぐるしく変わる様は、絶えず求め合う二人の姿を感じさせる。

第4場 - Fast

ロ長調のオーボエソロから始まる。牧師と信徒である若い少女らによる祝いのダンス。第2場と同様に緊張と弛緩を繰り返すこの場面からは、高揚感や多幸感を読み取ることができる。

第5場 - Molto Moderato - Allegro - Presto - Meno

弦楽器を中心とするホ長調のユニゾンから始まる。花嫁が母性を自覚していく。冒頭は音楽の流れを休符が堰き止めており、恐れや不安といった感情を感じさせるが、次第に8ビートを基調とした音楽となり、喜びの色が強くなる。最後には、オーボエとソロヴァイオリンが穏やかなソロを奏し、希望に包まれて場面が終わる。

第6場 - As at first (Slowly)

第1場のリプライズと移行部を兼ねる場面。

第7場 - Doppio moviemento

シェーカー教の民謡《Simple Gifts》をクラリネットソロが引用して始まる。夫婦の日々を描く。民謡は5つの変奏となって夫婦のダンスを導き、ヴァイオリンのアルペジオが盛り上がりを見せた後、オーケストラ全体による協奏によって喜びは最高潮に達する。

第8場 - Moderato - Piú Mosso - Andante(very calm)

ミュートのかかった弦楽合奏から始まる。第1場と対をなし、1日の終わりを穏やかに告げる。家を表した舞台には同じ方向を見つめる花嫁と花婿のみが残され、イ長調の響きの中で幕が降りる。

(Staff 米倉 宇大)

参考文献

  1. Fink, Michael. 2020. “THE STORY BEHIND: Copland’s Appalachian Spring.” Rhode Island Philharmonic Orchestra & Music School, November 8, 2021. https://www.riphil.org/blog/the-story-behind-coplands-appalachian-spring
  2. Halpern, Susan. 2018. “Appalachian Spring...Aaron Copland,” Susan Halpern Program Notes, November 8, 2021. https://www.halpernprogramnotes.com/copeland-appalachian-spring
  3. MacDonald, Malcolm. 1999. Copland Ballet Music, London: Boosey & Hawkes.
  4. Machlis, Joseph. 2016. “Aaron Copland,” Encyclopædia Britannica, November 8, 2021. https://www.britannica.com/biography/Aaron-Copland#ref178798

第2回定期演奏会
2021/11/23

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